グリーフケアとは?大切な人を見送ったあとの心との向き合い方を、看護師で遺族の私が解説
「もう何ヶ月もたつのに、まだ泣いてしまう。私、おかしいのかな」
大切な人を見送ったあと、こんなふうに自分を責めてしまう方は、とても多いです。
私は看護師として、化学療法室や緩和ケアの現場で、たくさんのご家族の「見送ったあと」に接してきました。そして15年前、自分の母をがんで見送り、海に散骨した遺族でもあります。
この記事では、その両方の立場から、グリーフケアとは何か、悲しみとどう付き合っていけばいいのかを、書いてみます。
グリーフ(悲嘆)とは、心の自然な反応のこと
グリーフ(悲嘆・ひたん)とは、大切な人を亡くしたときに起こる、心と体の自然な反応のことです。病気でも、心の弱さでもありません。
現れ方は、本当に人それぞれです。
- 涙が止まらない。逆に、涙がまったく出ない
- 眠れない。食欲がわかない
- 何も手につかない。ぼんやりしてしまう
- ふとした瞬間に、その人の声や気配を感じる
- 悲しいはずなのに、実感がわかない
「涙が出ない自分は冷たいのでは」と悩む方もいますが、そんなことはありません。悲しみ方に、正解も順番もありません。同じ家族を見送っても、家族のあいだで悲しみ方が違うことも、ごく普通のことです。
私の場合:悲しみは、波に似ていました
母を見送ったばかりの頃、悲しみは大きな波のように、何度も何度も打ち寄せてきました。
少し落ち着いたと思ったら、母の好きだった歌がお店で流れてきて、その場で泣いてしまったり。命日やお盆が近づくと、理由もなく心がざわざわしたり。こうした節目に心が揺れることは「命日反応(めいにちはんのう・記念日反応とも)」と呼ばれていて、時間がたってから悲しみが戻ってくるのも、自然なことなんです。
15年たった今も、悲しみが消えたわけではありません。ただ、波は寄せては返して、少しずつ穏やかになりました。消えはしないけれど、ちゃんと引いてくれる。それが、長く付き合ってきた私の実感です。
グリーフケアとは、悲しみを「消す」ことではありません
グリーフケアとは、悲しみを無理になくすのではなく、悲しみを抱えたまま暮らしていけるように支えることを言います。
特別な治療だけを指す言葉ではありません。誰かに話を聴いてもらうこと。思い出を語ること。お別れの儀式をきちんとすること。遺族どうしで気持ちを分かち合うこと。そうした関わりぜんぶが、グリーフケアになり得ます。
緩和ケアの現場でご家族によくお伝えしていたのは、「悲しみは、乗り越えなくていいんですよ」ということでした。乗り越えようとがんばるより、悲しみと一緒に暮らしていく形を、少しずつ見つけていく。その方が、ずっと自然だと思うんです。
自分でできるグリーフケア
私自身がやってみて助けられたこと、現場でおすすめしてきたことを挙げてみます。
- 泣きたいときは泣く。悲しみに「もう終わり」の期限を作らない
- 思い出を話せる相手を、ひとりでも持つ。話せないときは、書くだけでもいい
- 眠ること、食べることを最優先にする。心は体と一緒に回復していきます
- 「会いに行ける場所」を持つ。お墓でも、海でも、写真の前でもいい
- ほかの人と悲しみ方を比べない。家族とも、比べない
私にとっては、母を還した海が「会いに行ける場所」になりました。命日じゃなくても、心がざわつく日に海を見ると、呼吸が深くなる。戻れる場所がひとつあるだけで、悲しみとの付き合い方はずいぶん変わると感じています。
まわりの人ができること
身近な人を亡くした方に、どう接すればいいか迷う方も多いと思います。看護師として、そして遺族として言えるのは、シンプルなことです。
- 励まさなくていい。「元気出して」「いつまでも泣かないで」は、実はいちばんつらい言葉になることがあります
- 無理に話題にしなくていい。普段どおりに接してもらえるだけで、救われます
- 話しはじめたら、さえぎらずに聴く。アドバイスはいりません
- 命日や節目に「思い出してるよ」と一言もらえると、それだけでうれしいものです
そばにいて、普段どおりでいてくれること。見送る前も、見送ったあとも、家族や友人にできることの本質は同じなのだと思います。
つらさが長く続くときは、専門家を頼ってください
グリーフは自然な反応ですが、眠れない日や食べられない日が長く続いたり、日常生活がまわらない状態が続いたりするときは、ひとりで抱え込まないでください。
心療内科などの医療機関のほか、病院によっては遺族のための外来や、遺族会(同じ経験をした人が集まる場)もあります。専門家や同じ経験をした人を頼ることは、弱さではなく、自分を大切にする選択です。
散骨を選んでも、「会いに行ける場所」は持てます
散骨を考えている方から、「お墓がないと、あとで気持ちの行き場がなくなりませんか」と聞かれることがあります。私の答えは、15年分の実感を込めて「大丈夫でした」です。
海は、いつでも会いに行ける場所になりました。散骨のあとの心の揺れとの向き合い方は、こちらの記事にくわしく書いています。
まとめ:悲しみは、愛した時間の証です
この記事の要点をまとめますね。
- グリーフ(悲嘆)は、大切な人を亡くした心の自然な反応。病気でも弱さでもない
- 悲しみ方に正解はなく、人それぞれ。家族間で違っても普通のこと
- グリーフケアとは、悲しみを消すことではなく、悲しみと一緒に暮らせるように支えること
- 泣くこと・話すこと・眠ること・「会いに行ける場所」を持つことが、自分でできるケアになる
- つらさが長く続くときは、医療機関や遺族会を頼っていい
悲しみが深いのは、それだけ深く愛した証です。急がなくて大丈夫。あなたの悲しみが、あなたのペースで、少しずつ穏やかな波になっていきますように。