看取り 2026.07.15 読了 8分

看取りとは?家族にできることは「そばにいること」──がん看護と母の看取りを経験した看護師の話

家族の看取りが近づくと、何をしてあげればいいのか分からず不安になりますよね。化学療法室や緩和ケアで多くの方の最期に寄り添い、自身も母を看取った看護師が、家族にできることと後悔しないための準備を、体験ベースでやさしくまとめました。

「看取りが近いです、と言われたけれど、私は何をしてあげればいいんだろう」

大切な人の残り時間を意識したとき、多くの方がこの問いの前で立ち止まります。

私は看護師として、化学療法室や緩和ケアの現場で、たくさんの方の最期の時間に立ち会ってきました。そして15年前、自分の母をがんで看取りました。

仕事であれだけ見送ってきたのに、娘としての私は、母の前でただ戸惑うばかりでした。この記事では、その両方の立場を経験して分かった「家族にできること」を、できるだけやさしく書いてみます。

看取りとは、回復を目指す治療ではなく、痛みやつらさを和らげるケアを受けながら、残された時間の安らかさを大切にして最期まで寄り添うことを言います。医療の言葉というより、家族の時間の話だと、私は思っています。

看護師なのに、母の看取りだけは冷静になれなかった

最初に、私の失敗談からお話しさせてください。

母の病状が進んだとき、私は「看護師の娘」として振る舞おうとしました。点滴の滴下を見て、数値を気にして、先回りして準備して。知識があるぶん、「何かをしてあげなければ」と、ずっと焦っていたんです。

でもある日、母にこう言われました。「あなた、ずっと難しい顔してるね」と。

はっとしました。母が求めていたのは、看護師ではなくて、娘だったんですよね。それからは、ベッドの横でお茶を飲みながら、昔の旅行の話や、どうでもいいテレビの話をするようになりました。いま振り返ると、母との一番の思い出は、その「どうでもいい話」をした時間です。

家族にできることは、思っているよりシンプルでした

緩和ケアの現場でご家族によく聞かれたのが「何をしてあげればいいですか」という質問でした。私はいつも、こうお答えしていました。

  • そばにいること。何かを話さなくても、同じ部屋にいるだけで十分です
  • 手を握ること。言葉が届きにくくなっても、触れた温かさは伝わると言われています
  • 普段どおりの話をすること。病気の話ばかりでなくていいんです
  • ご自身の休息をとること。家族が倒れてしまうことが、一番つらい結果になります

特別なことは、何もありません。「何かをする」より「そばにいる」ことが、家族にしかできない役割だと、看護師としても、娘としても思います。

医療的なことや体の変化への対応は、医師や看護師に遠慮なく頼ってください。私たち医療者は、そのためにいます。ご家族が抱え込む必要はないんです。

後悔しないために、聞いておいてよかったこと

看取りの時間には、もうひとつ大切な役割があります。本人の「希望」を聞いておくことです。

うちの場合、母は元気なうちから「私が死んだら、海に散骨してほしい」と伝えてくれていました。正直、聞いたときは戸惑いました。でも、いざ見送りの形を決める場面で、この一言があるかないかは、本当に大きかったです。

緩和ケアの現場でも、ご本人の希望が分からないまま、ご家族が「これでよかったのかな」と悩み続ける姿をたくさん見てきました。迷ったとき、家族を支えてくれるのは「本人がそう望んだ」という事実です。

聞きにくい話題ではあります。あらたまって聞くのが難しければ、テレビの終活特集をきっかけにしたり、エンディングノート(もしものときの希望を書き残しておくノート)を一緒に眺めたりするのも、ひとつの方法かなと思います。

「まだ早い」と思ううちが、ちょうどいいのかもしれません

看取りの話も、見送りの希望の話も、「まだ早い」と感じているうちにしておくのが、実はちょうどいいタイミングだったと、私は経験から思っています。

病状が進んでからだと、本人も家族も、落ち着いてその話をする余裕がなくなります。うちの母が散骨の希望を話してくれたのも、まだ日常の会話ができる時期でした。だからこそ、重たい空気にならずに「ふうん、海かあ」と受け止められたのだと思います。

元気なうちの何気ない会話が、そのまま一番の「準備」になる。これは、看取りを経験した人の多くがうなずいてくれることじゃないかなと思います。

看取りのあとの心も、大切にしてほしい

最後に、これから看取りに向き合う方に、もうひとつだけ。

見送ったあと、心にぽっかり穴があいたようになる時期が、多くの人に訪れます。それは異常なことではなくて、大切な人を亡くした心が通る、自然な道です(グリーフ=悲嘆と呼ばれます)。

私自身、母を見送ったあと、悲しみが波のように寄せては返す時間を長く過ごしました。看取りは見送った日で終わりではなく、そのあとの心の時間も含めて看取りなのだと、いまは思っています。

まとめ:そばにいた時間が、ぜんぶ答えになる

この記事の要点をまとめますね。

  • 看取りで家族にできることは「そばにいること」。特別なことはいらない
  • 医療的なことは医療者に頼っていい。家族は家族の役割だけでいい
  • 本人の希望を聞いておくと、あとで家族を支えてくれる
  • 「まだ早い」うちの何気ない会話が、一番の準備になる
  • 見送ったあとの心の時間も、看取りの一部

看取りに、正解はありません。ただ、そばにいた時間は、あとから必ず「あれでよかった」の根拠になってくれます。いま大切な人の残り時間と向き合っているあなたが、ひとりで抱え込まずにいられますように。