終末期に散骨を考え始めた方へ──看取りの現場から、お伝えしたいこと
ご家族の終末期を迎えるなかで、「散骨」という言葉が、ふと頭をよぎる──。
そんな段階に、いま立たれている方へ。
看護師として、長く看取りの現場に立ち会ってきた私から、そして、自分自身の母を散骨で見送った娘として、お伝えしたいことがあります。
終末期に「お墓」を考える、ご家族と本人
終末期というのは、ご本人にとってもご家族にとっても、心の整理がとても難しい時間です。
治療の選択、これからのケアの方針、家族との時間の過ごし方。 考えなければならないことが、一度にたくさん押し寄せてきます。
そんななかで、ご本人が「お墓はいらないから」「散骨してほしい」と話されることがあります。
突然そう言われたご家族は、戸惑うことが多いものです。
「いま、そんな話?」 「もっと長く生きるつもりで、いてほしいのに」 「準備って、何をすればいいの?」
その戸惑いは、自然な反応です。
でも、ご本人がその話をされるとき、それは「ご家族を信頼している証」でもあるのだと、私は現場で感じてきました。
患者さんから聞いた「最後の願い」のこと
私は看護師として、抗がん剤治療を行う病棟と、緩和ケアの現場で、多くの患者さんと向き合ってきました。
最期の時期に、患者さんがご家族にそっと話される言葉は、人それぞれです。
「子どもたちには、お墓のことで困らせたくないんです」 「海が好きだったから、海に還りたい」 「自然のなかに、戻りたい」 「お墓よりも、皆と過ごす時間が大切だった」
そのどれもが、ご本人の人生観の結晶でした。
そして、ご家族がそれを受け止めて、形にしていく姿を、私は何度も見てきました。
「ご本人の意志を、できる限り叶える」ということが、最後の親孝行になる場面が、確かにあります。ご本人の意志を尊重するということ
ご本人が「散骨してほしい」と話されたとき、まず大切にしたいのは、その言葉を「ちゃんと聞く」ことだと思います。
「いまそんな話、しないで」と話を遮るのではなく、 「どうしてそう思うのか、聞かせてもらえる?」と、開いた姿勢で受け止める。
ご本人が、どんな想いでその選択を考えたのか。 それを聞ける時間は、ご家族にとっても、かけがえのない時間になります。
私の母も、闘病が始まる前から「お墓はいらない、散骨してほしい」と話してくれていました。
闘病中、母とその話をていねいにできた時間は、いま振り返っても、私と母の絆を深めてくれた、特別な時間でした。
終末期の段階で、家族でできること
終末期の段階で、ご本人とご家族でできることは、いくつかあります。
1. ご本人の希望を、できるだけ具体的に聞いておく
散骨と一口に言っても、どこの海がいいのか、いつ頃がいいのか、誰に立ち会ってほしいのか。ご本人の希望は、できる限り具体的に聞いておくと、後の準備がスムーズになります。
2. 業者選びを、少しずつ始めておく
散骨業者は全国に多数あります。ご本人の希望に近いエリアや、ご家族の住んでいる場所に近い業者を、ゆっくり調べておくと安心です。
3. ご親族にも、徐々に共有しておく
ご本人が亡くなってから「散骨にする」と親族に伝えると、反対されることがあります。 ご本人の意志であることを、できる範囲で生前に共有しておくと、後の家族の話し合いが穏やかになります。
4. ご本人が体力的に難しい場合でも、できる範囲で意思確認を
筆談、首をうなずく動作だけでも、意思確認はできます。看護師さんやケアマネジャーさんに相談すると、サポートしてくれる方法があります。
私の母の場合
私の母は、闘病が始まる前から、すでに「散骨してほしい」と話してくれていました。
闘病が始まってからは、その想いがいっそうはっきりしました。 私たち家族は、母の希望をていねいに聞きながら、業者を少しずつ調べていきました。
最期のときが近づいた頃、母は穏やかでした。
「お墓のことを心配しないで、私はもう自由になるから」
そう話してくれた母の言葉は、今でも私の心に残っています。
母を看取り、散骨で見送ったその先に、私は「母の人生を、最後まで尊重できた」という、確かな実感を持つことができました。
もし、いまご家族の終末期に立ち会いながら、散骨という選択を考え始めているなら。 ひとりで抱え込まず、ご家族や、信頼できる方と、少しずつ話してみてください。
きっと、あなたとご家族にとっての、いちばん自然な形が、見えてきます。